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東京家庭裁判所 昭和42年(少)2311号 決定

少年 G・I(昭二三・一二・一六生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

本件事件記録中の検察官送致書指定司法警察員送致書及追送致書記載犯罪事実のとおりであるから、これを引用する。

(以上の犯罪事実は、少年調査記録中の昭和四十二年二月二十七日付少年調査票に記載してあるとおりである)

(適条)

窃盗の点につき 刑法第二三五条

同未遂の点につき 刑法第二四三条第二三五条

(本件につき少年を特別少年院に送致する事由)

本件審理の結果によると、少年の生活史、非行歴、家庭状況、生活環境および非行の動機内容等については少年にかかる少年調査記録中の各書類に記載してあるとおりの事実が認められる。すなわち、少年は、その養育条件が極めて不遇で、主として盲愛型の祖母の中で基礎的しつけもされず育つたもので、少年の非行性は、恵まれない家庭環境に主な原因があるといえる。そして、昭和三十九年九月一日新潟家庭裁判所において窃盗罪により初等少年院送致決定を受け、千葉星華学院に収容され、昭和四十年十二月十五日同院を仮退院したが、その後一ヵ月ぐらいで本件非行が再発し、昨年八月頃までは、手当り次第の盗みにより本件犯行を重ねつつ放浪生活を続けてきたが、幸いにも、昨年九月初旬、前記住居小○谷鉄筋に落着いてからは、雇主小○谷○雄氏の理解ある取扱のためか、職場における人間関係も良好に保たれ、その好条件下に少年の犯罪的傾向はかなり抑制されつつ今日に至つている。従つて少年が社会人として更生の途を歩むためには、現雇主小○谷方は、極めて有力なる資源であるが、少年をいま直ちに社会に復帰させることは、本件犯行の回数が極めて多数回にわたつている等の事由から、到底許さるべきでなく、国家による強力なる矯正教育は当然必要である。

以上の事由により本件処遇としては、鑑別結果による判定にしたがい、少年を特別少年院に送致することが相当である。よつて、少年法第二十四条第一項第三号を適用の上主文のとおり決定する。

(裁判官 市村光一)

参考一

環境調整に関する指示事項通知書(少年法第24条第2項)

新潟保護観察所長 殿

昭和42年3月4日

東京家庭裁判所

裁判官 市村光一

少年 G・I

久里浜少年院在院中

昭和23年12月16日生

上記少年の環境調整については、本職あての調査官からの調査報告書を充分に参照され、次の諸点について特に配慮してください。

祖母は近所から変人扱いされており、又少年の後見人と後見監督人は夫婦であり、共に祖母と折り合い不良の状態にある家庭環境では、少年の社会復帰後の受入態勢として甚だ遺憾な状態であり、これが改善されなければ矯正教育も、その後の社会生活に実効をもたらすことは難かしいと思われる。

従つて次の事項を考慮し、祖母と後見人、後見監督人間の調整を計つてください。

1.少年の援護補導について、祖母、後見人、後見監督人の三者の意見の調整を計り、円満な環境をつくりあげるよう指導すること。

2.祖母、後見人、後見監督人のそれぞれの監護能力と監護の熱意等を考慮し、今後の監護のあり方について適切な助言を与えること。

3.祖母は自己の財産の相続に関し、危惧を抱いていると思われるので、それを払拭するような措置をとること。

(イ) 夫婦で後見人、後見監督人の地位につくことは、民法第850条違反であるから適法な状態に戻す措置をとること。

(ロ) 後見の適正なる運用を計るよう、祖母、後見人、後見監督人に適切な助言を与えること。

参考二

調査報告書

東京家庭裁判所

裁判官 市村光一殿

昭和42年3月4日

同庁

家庭裁判所調査官 関谷一朗

昭和42年少第157号 少年 G・I

上記少年に関し、下記のとおり調査したから報告します。

日時 昭和 年月日 陳述者

〈少年の家庭環境について〉

1.家族・その他

○祖母G・K子81歳農業新潟県南蒲原郡○○村大字○○○○○××××番地に居住

○後見人(伯母)T・N子56歳

○後見監督人(T・N子の夫)T・B47歳郵便局員

同村大字○○○○○△△△△番地に居住

○実父G・TS30.6.8死亡

○実母G・S子S25春家出S25.7.10協議離婚

○祖父G・KS36.3.4死亡

○姉S39.12死亡

・父、祖父、姉は何れも精神薄弱者だつた。

・少年は母が家出後祖母に養育された

・父死亡により祖父が後見人になつたが祖父の死亡により、同日伯母夫婦が後見人および後見監督人に就職した。

2.家庭の状況

(1) 祖母は頑固で口やかましい。近所からは変人扱いされている。少年には盲目的な愛情をもつている。

老齢だが元気が良く、1人で田1町1反を耕作しており、生活には困らない。

家の中は何ヵ月も掃除したことがない程に汚れており、訪ねる客は殆んどいない。

(2) 後見人T一家は同じ部落で雑貨商を営んでいてT・Bは郵便局の保険外交員をしている。

T・N子は、最初T・Bの兄Cの妻であつたがCが死亡したためT・Bと再婚した。

この点についてT・Bは「戦争から帰つて、未亡人となつた年上の兄嫁とやむなく結婚しなければいけない破目となり、そのおかげでG・Iとまで関係ができてしまい、全く迷惑だ」という口振りを示す。祖母との間に好感情はない。

T・N子も祖母と折合が不良である。祖母はT・N子に猜疑心が強くT・N子が財産(将来祖母から少年に相続さるべき財産)を狙つていると考えて、警戒している。

少年とT夫婦との間に親愛感が薄く、少年は打ちとけない。

結局T夫婦は、後見は名ばかりで、少年や祖母とはあまり行き来しないで実際的な監護は殆んどやつていない。

(以上は新潟家庭裁判所に対する調査嘱託の回答および同庁に於ける前件の社会記録による。少年の今回の当庁での審理では、T・Bは2度の審判に、その都度新潟から出頭した。審判廷では常識的な態度で保護上の意見を述べ少年院送致決定後、面会し衣類を差入れしていた。全くの冷淡、無関心というのではない)。

3.保護上の問題

(1) 少年を実質的に監護して来たのは祖母である。祖母は、少年を盲愛しているものの実際の保護能力は乏しい。

前回、初等少年院で矯正教育を受けたが仮退院後祖母に保護監督する力がなく結局1ヵ月位の短期間で生活が崩れ始め再犯している。特に年齢から考えて、今回の少年院在院中に祖母が死亡する事態も予想される。その場合、少年の実質的な監護、養育者はなくなり、保護条件は最悪のものとなる。この様な保護条件を改善、整備しなければ矯正教育は、その後の社会生活に実効をもたらし難い。

(2) 伯母T・N子が後見人として少年を監護、教育する立場にあるが、実質的な活動をしていない。

本来、保護上の能力は祖母より高いと思われ、又、祖母死亡後は実質的な監護養育を担当すべき地位にある。結局今後は後見人を中心とする保護の態勢を考えて行くことが適当であろう。そのために祖母との関係を調整し、後見についての双方の理解を高め、後見を適正、適切に行なわれる様な指導が望まれる。

(3) 後見監督人T・Bは後見人T・N子の夫である。(○○村役場戸籍係に電話照会し確認)これは、民法第850条の規定に反する。(後見監督人が選任された経緯は明らかでない)。とりわけ、祖母の財産相続について、少年と伯母は利益が相反する立場にあることを思えば、実際上、問題であろう。

参考三

新保観第四四二号

昭和四三年二月二二日

新潟保護観察所長 根本鐐衛

東京家庭裁判所裁判官殿

少年院送致処分に付された者の環境調整について(結果通報)

本籍 新潟県○○○郡○○村大字○○○○○××××

(昭和四二年二月二八日、特別少年院送致処分、久里浜少年院在院)

G・I

昭和二三年一二月一六日生

昭和四二年三月四日付をもつて、少年法第二四条第二項によるご指示があつた、右の者に関するみだしのことについて、左記のとおり、結果通報いたします。

一、主任保護観察官に保護観察官佐々木三郎を、担当保護司に○○保護区配属保護司佐野四郎を、それぞれ指名し、本件の調整にあたつた。

二、前記両名は、緊密に連絡協議して、次のように関係者参集しての協議懇談から着手した。

1 参集日時 昭和四二年四月一〇日

2 参集場所 ○○村大字○○○××××MR宅

3 参集者

(一) 本人の実祖母(亡父G・Tの実母)親権者

G・K子

明治一八年五月一三日生

(二) 本人の実伯母(祖母K子と、正規の婚姻によらない最初の夫K・Sとの間に出生(非嫡)した実子。本人の亡父G・Tの異父姉)後見人。

T・N子

明治四三年六月二一日生

(三) 本人の実伯母T・N子の夫。後見監督人。

T・B

大正八年三月二五日生

(四) 有力な親族(祖母K子の亡父○○の亡兄M・Nの亡子M・H子の夫)

M・R

明治三八年四月二二日生

(五) 有力な親族(右M・Rの長男)

M・O

昭和五年六月八日生

(六) 新潟保護観察所

保護観察官佐々木三郎

(七) 新潟保護観察所管下○○保護区配属

保護司佐野四郎

4 その他参考事項

(一) 祖父○○は、昭和三六年三月四日死亡

(二) 父G・Tは、昭和三〇年六月八日死亡。

(三) 姉G・A子は、昭和四〇年一二月二一日死亡。

(四) 本人の現家族は、祖母G・K子だけであり、直近の親族は、伯母T・N子だけである。

三、協議懇談の結果意見一致した事項

1 佐野保護司が所轄家庭裁判所に出向いて、後見人および後見監督人のことについて、係官に面接して事情を聴き、善処すること。

2 次に佐野保護司が附き添い、T・N子、T・GおよびM・RまたはM・Oが、同家庭裁判所に出向いて、後見監督人更迭の手続きをすること。

3 祖母G・K子は、後見人および後見監督人に無断で、養子を迎え入れ、あるいは財産を処分するなど勝手な行動はしないこと。

4 後見人および後見監督人は、積極的に祖母G・K子の財産保全に努めること。

5 後見および後見監督の職務のために要した経費は記録しておき、財産処分の際に精算を考慮すること。

6 祖母G・K子および伯母T・N子の両名は、四月一一日(本協議懇談の翌日)久里浜少年院に赴き、本人に面会して将来相続すべき財産およびその保全策のことなど、本日の協議懇談の結果を話して聞かせ、励ますと同時に強く反省自覚を促すこと。

7 そのさい、本人は出院しても直ぐには祖母のもとに帰らず理解ある雇主、小○谷○雄氏のもとで数年間修業して後に帰郷することが郷里の四囲の状況から最善であるとの旨を、本人に対し充分に説示すること。但し、本人が帰郷を望むならば本人の意思を尊重すること。

以上のとおりであるが、協議懇談の当初の状況では、祖母G・K子には、本人G・Iの改善更生よりも、「家」の存続、財産(田一町一段歩位、畑を含む宅地二段歩位、竹藪一段歩位、住家その他の建物計四棟)の保全を先とする、頑固な執念があり、その反面、本人に対する盲愛と、己れの実子であるT・N子に対する、偏見に基づく根強い猜疑心を抱いていることが、言動に表われていた。本人の祖母と伯母の折り合い不良の最大の原因が、祖母の猜疑心にあつたと思われる状況であつた。それらは協議懇談によつて払拭されたようすである。

かくして、両者間に理解と融和が得られ、両名連れ立つて、本人に面会に行くことにもなつたのである。

また祖母は、本人を強く盲愛している反面、「G・Iなどはあてにしていない。養子を迎えて全財産を与え、家を継がせる。養子を物色中である。」などと、協議懇談の当初に発言し、後見人らを驚かせた。後見人らとの話し合いなどは全くなされていなかつたようすであり、財産の贈与、売買、遺言相続などのことについて、陰でこの老婆に入れぢえし、そそのかしている者があるらしいと推察される状況であつた。

これらのことは、本人の利益のためにも重大な問題なので、今後、後見人および後見監督人は、充分に、積極的に配意して、防止をはからねばならないとの旨、協議懇談の裡に、各関係者らは、深く理解されたと思われる状況であつた。

四、その後の経過および結果

1 後見監督人更迭の手続は、昭和四二年四月一九日着手、同年四月二八日、新潟家庭裁判所三条支部において完了。後見監督人T・Bを、前記M・Rに変更となる。

2 昭和四二年五月四日、本人の久里浜少年院収容による、身上調査書(別添写参照)の送付を受けたので、犯罪者予防更生法第五二条による環境調査調整を、並行して開始した。

3 同環境調査調整結果は、別添写のように、関東地方更生保護委員会に報告し、久里浜少年院に対しては同報告書写を送付して通報したとおりである。

4 関東地方更生保護委員会における、本人に対する仮退院審理と並行し、本人の祖母G・K子および伯母T・N子の両名は、再度にわたり同少年院に出向いて本人に面会し、篤志雇主小○谷○雄氏のもとに帰住することが、四囲の状況から最善である旨、本人との話し合いによつてきめられていた。

5 昭和四三年二月五日、関東地方更生保護委員会において、指定日を昭和四三年三月二九日、指定帰住地を埼玉県戸田市○○○××××、雇主、小○谷○雄方とし、仮退院許可決定がなされた旨の通知を、昭和四三年二月一二日に受理したので、本件の環境調整も一応終結した。

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